ある朝

 じゃんじゃじゃーん。
 レトロな効果音とともに襖の陰から近藤が飛び出してきた。鏡に向かい慣れないアスコットタイを整えていた土方は顔を上げ、近藤の姿に目を向ける。まっさらな隊服に身を包んだ近藤が満面の笑みで両手を広げた。
「どう、どう!これ!」
 似合う?とその場で一回りし、ポーズをとる。隊服に合わせ切ったばかりの髪を指先で気にしている。
「似合う」
 微笑み、近藤へ歩み寄る。自然に手を伸ばし、近藤の胸元でやわらかく陰影を作るスカーフを綺麗に形作る。
「男っぷりが上がったな、近藤さん」
「トシに言われると照れるなぁ」
 そのあとは土方に対してしきりに似合う、格好いいと繰り返しだした。もういいからと土方が遮っても、近藤は遠足前の子供みたいにはしゃいでいた。無理もないと思う。表には出さなくとも土方も同じ気持ちだった。おそらく隊士全員が同じ想いで袖を通したことだろう。
 近藤さん、と呼び止める。
「上着、脱いでもらっていいか」
 近藤は暫く意味が分からないといった様子で土方を見ていたが、素直に従い着ていた隊服の上着を土方に渡した。生地がしっかりしている分、一般的なジャケットに比べたらやや重い。近藤の背後に回り込むと、上着の襟ぐりに手を添え近藤の背中に掲げた。何も言わなかったが近藤は土方の持つ左袖へ腕を滑らせた。近藤が右腕を後ろに曲げる。肩甲骨の動きでワイシャツの背に皺が寄る。あわせを広げ、通しやすいよう腕を導く。しゅっ、と衣擦れながら右腕に袖が通った。軽く持ち上げ肩の位置を合わせる。
 肩から背中、腰にかけて滑らかな曲線を描き、近藤のために仕立てられた上着はぴたりと収まった。余計な皺ひとつない。埃を払うように肩に手を置いた。手の平から近藤の熱が伝わってくる。
──なにがあってもこの背中を支える。
──俺たちが守ってやる。
──前を向いて走るあんたに俺たちは全力でついていく。
「トシ」
 振り返らずに近藤が土方を呼んだ。先程までのはしゃいだものではなく、決意と緊張の滲むどっしりとした声音だった。
「任せた」
「任された」
 真新しい隊服は朝の日差しを受けてキラキラ輝いていた。

─終─



   あとがき

 真選組始動の話でした。上着着せる話は一度は書きたかったので楽しかったです。土方さんを筆頭に、真選組の面々は近藤さんの背中が好きだと思います。てか私が好きです。