江戸にクリスマス文化が持ち込まれてから十数年。沖田の世代ではすでに恋人同士で過ごす日として定着している。そんな恋人たちの愛の日に、誰よりもいちゃいちゃ過ごしたいと望みながら誰よりも縁遠い人物──近藤を捜して沖田は屯所をフラフラ歩いていた。今年もまた茶化してやろうと思っていたのだ。
だが沖田の思惑はから回った。
「今年はお妙さんと過ごします!」
喜色満面の体で近藤は一張羅の紋付き袴を着付けていた。
「正直、正直ダメモトだった。断られると思ってました。でもな、せめてプレゼントを渡す時間だけでもと思ったらな、お妙さん、はにかみながら言うんだよ『いいですよ』て!めっちゃ可愛い!!めっちゃ可愛いいいいいいい!!」
とはいえスマイルに行くのだ。志村妙からしたらただの財布だ。それは変わりない。
とはいえとはいえ、二人で夏祭りデートしていたりと以前では考えられないほど距離が縮まっている。坂田の話では結構いい雰囲気だったとかなんとか。
とはいえとはいえとはいえ……あ、なんか胃がしくしくする。と思った時には沖田の口からどす赤い液体が吐き出されていた。がくがくと身体を揺すぶられながら、薄れゆく意識の中で近藤の声が遠くに聞こえた。
「そ、総悟ォォオ!トシー!トシー!!隊士の中でどなたかお医者様はおりませんかァァァ!!」
「トマトジュース吐くとか、お前、万事屋ンとこのチャイナ娘が聞いたら腹抱えて笑うぞ」
「土方さんこそ病人の横で煙草吸うたぁ、良識疑いまさァ」
「病人ねえ」
沖田の恨み節を土方は一笑に付した。胃が痛かったのは事実なので仮病でもないが、それも見通して土方は笑っているようだった。
「でもまぁ、風邪じゃないかって近藤さんは心配してたからな。今日はそのまま寝てろ」
それから、と沖田の枕元を指し示す。
「てめーのクリスマスプレゼントだってよ。寝てる間に置いてったよ」
「そういうこと一々言っちまうから土方さんは野暮なんでさァ」
藍色のラッピング用紙を開いてみると平たい木箱が現れた。中には刀の鍔が納められていた。透かしのないシンプルな角丸型の鍔に、猛禽類の意匠が施されている。そろりと沖田は鍔を取り出す。ひんやりとした金属の重たさが手のひらに心地よく、平地の手触りはやさしい。鋭い眼光で力強く羽ばたく鷹を指先でなぞる。
「近藤さん……」
沖田はかなり早い段階でサンタの存在を否定する可愛げのない子供で、どうせくれるんだから手渡しでいいのにと口幅ったく要求したりもしたが、近藤は必ずクリスマスの夜にプレゼントを枕元に置いて行った。目が覚めてから枕元の包みを見つけるまでの期待と不安が入り混じったドキドキ感と、プレゼントを発見した瞬間の多幸感は、生意気な子供だった沖田にしっかり刷り込まれてしまった。それが今も続いている。それが嬉しい反面、いつまで子ども扱いが続くのだろうかという不満もある。
沖田は枕に突っ伏した。
「随分頑丈な鍔だな」
「盗み見するの止めてもらえませんかねー」
横目で土方を見ると、なにやらニヤニヤと笑っている。
「お前すぐ斬り合いおっ始めるからな」
反論しようとしたところで襖が動いた。恐る恐る様子を窺う近藤の姿に沖田と土方の視線が止まる。
「総悟具合はどうだ?」
「もう大丈夫でさ」
「外、降ってたか?」
入ってくる近藤と入れ違いに腰を上げた土方が立ち去り際、近藤の髪から雪の欠片をつまみ上げた。軽く払ってやる仕草に沖田は少しイラッとする。土方が出て行ったのを見計らって近藤の傍へにじり寄った。
「近藤さん、プレゼントありがとうございます。大切しやす」
「総悟が一年いい子にしてたからだぞ」
「俺からもあんたにあるんですが、その前に」
頭を撫でる手を取り、もう片方と一緒に両手で包み込む。近藤は少し不思議そうに微笑んだ。
「姐さんのとこには?」
「行ってきたよ。プレゼント渡せたから帰ってきた」
「外、寒かったですかィ」
「ああ」
近藤の冷えた手は沖田の温まっていた手を冷やす。代わりに沖田の体温が近藤に移っていく。
「俺はね、あんたに愛されてるって自覚はちゃんとあるんですよ。近藤さんに出会えて俺ぁ幸福でさァ」
「どうしたんだよ、急に」
「あんまり寒そうな面して帰ってくるもんだから、近藤さんにも俺に愛されてるって実感してもらおうと思いやして」
ごちん、と近藤が額を合わせてきた。ありがとうと言う吐息が嬉しそうに笑っている。
「感じてるよ。俺も総悟に会えて幸せだ」
近藤が惜しげもなく注いでくれる無償の愛を、沖田からも等しく返すふりをしてそこにあるのは紛れもない下心だ。
「近藤さん、手暖かくなりやしたね」
冷えた手を温めてくれる人物が誰なのか、来年の今頃には近藤も思い知っていることだろう。本来の体温を取り戻した近藤の両手を沖田は強く握りしめた。
─終─