「二人っきりになりたい」
公開当時少し話題になったサスペンス映画が地上波初登場ということもあり、幾らか楽しみにしていたのだが、近藤が開始三十分にして早くも突拍子もないことをぼやき始めた。ごろごろ腰にまとわりついてくる。近藤のビール……ではなく発泡酒の缶は既に空になっていたが、酔っ払ったにしても早すぎる。
「今二人っきりだろ」
自分の缶を傾けながら、まとわりつく近藤の頭をはたく。
『神経過敏になっているんですよ』
精神科医が無機質な顔で、主人公の男に告げている。怪しすぎて怪しくないとみせかけて逆に怪しい。
「じゃあなくてェ、山荘とか孤島とか本気で誰もいないようなさぁ。もう全部捨てて」
「そんな甲斐性ねぇよ」
今しがた登場した刑事ってのがまたいかにもな強面。別れた妻は異様に美人だったが。どうやら過去に主人公の親友が失踪したか、殺されていたらしい。つうか山荘やら孤島やら、ミステリーのお約束な舞台だな。
「そうですよねー。長谷川さんは結局ハツさんのこと、忘れられないんですよねー」
つっかかってくる近藤の発言に思わず発泡酒を傾ける手が止まった。膝に頭を乗せている近藤を見下ろす。
「そりゃてめぇだろが。忘れられないくせに」
「忘れられないから捨てたいのに」
「調子いいな」
温くなった発泡酒を飲み干した。空になったアルミ缶をテーブルに立てる。いつの間にか男は、ヒステリックに叫びながら部屋中のものを引っ掻き回している。
『こんなことなら……!』
「そんなことになったら、俺嫉妬に狂ってお前殺すかも」
「キャラ違くね?」
笑いながらの軽口。筋肉を断つように近藤の首を撫でる。撫でられ、近藤は自嘲気味に笑った。
「それでやっと忘れられるかも」
「随分と根深いな」
首から手を離した。テレビ画面にはCMに替わっていた。近藤をどかして立ち上がる。冷蔵庫から冷えた発泡酒の缶を二本取り出し、元の場所に戻った。起き上がった近藤の前に缶を置く。出ないと思ったら目つきの鋭い刑事は殺されたらしい。二、三人知らない顔も増えている。
二本目の発泡酒を空けようとする手を制された。缶の口を押さえる手をたどるように顔を見る。
「今忘れさせるくらいの甲斐性みせてくれよ」
映画が見たかったのになぁ。主人公の男が仕切りに気にしていたメモのことも、別れた妻が言っていた「あの日」のことも、全てが藪の中だ。
「今度DVD借りてこいよ」
男の最後は幸せだろうか。
─終─