冷たい廊下と温い布団

 雪がとうとうと降り続いている。積もった雪で庭木が重たそうに枝を下げる。外気のせいで冷えた廊下を、山崎は足早に歩いていた。一向に起きてこない近藤を呼んでくるよう、土方に頼まれたからだった。こんな寒い中近藤を呼びにいくなんて、頼んだのが土方でなければ意地でも断っていたところだ。その点では自分は運が悪い。
 白い息でため息を吐くと、勢いよく近藤の私室の襖を開けた。
「局長、起きてください。副長も怒ってますよ」
 返事はなく、布団の中の大きな塊がもぞもぞと動く。仕方なく布団に近づき揺らしてみる。
「朝ですよ。起きてくださーい」
 頭の先だけを布団から出したまま低く唸ると、近藤は片手で布団を持ち上げた。やっと起きてくれるのかと思っていたら、寝惚けた声が布団の下から聞こえてきた。
「よーし、オジサンと一緒に寝よう」
「何馬鹿なこと言ってんだ、あんたァ!寝惚けるのも大概にしろよ!!」
「ほーら、暖かいぞー」
 反抗虚しく山崎は近藤の布団の中に引きずり込まれてしまった。然もきっちり布団を掛け直してくれる。何が悲しくてこんなゴリラ顔の男と一緒の布団に入らなければならないのだろう。逃げようにも近藤の腕が山崎の腰に回ったまま離そうとしない。どう考えてもこの状況はおかしいだろ。そう思いつつも、反抗するのに疲れた山崎は諦めて頭を下ろした。
 冬の冷たい空気の中、近藤の体温で暖められた布団は温い。最近仕事が深夜に及んでいたし、今朝も早かった。当然の結果として、心地良い眠気が襲ってきた。瞼がとろとろと落ちてくる。良くないと思いながらも意識は遠のいていく。
「あー……良い匂いがする」
「ぎゃあァァ!!」
 いきなり近藤の鼻が山崎の首筋張り付いた。眠りについた直後だっただけに余計驚きは大きい。どうやら近藤には無意識のものらしく、その状態のまま規則正しい寝息をたてていた。ちょっとドキドキしてしまった自分が悲しい。
 やはりこの状態から抜け出そうと、体を捩ったときだった。一瞬嫌な予感が頭をかすめる。視界の端に開けっ放しの襖と、人影が映った。
「何やってんだァァァ!!山崎ィィィィィ!!」
 部屋中に怒鳴り声が響き渡る。あっという間に布団から引きずり出されると、目の前に瞳孔の開いた土方の顔があった。
「何でてめえが一緒に寝てんだ!!」
「誤解ですよ、俺が寝ようと思ったんじゃなくて、局長が勝手に……」
 弁解を聞くそぶりも見せず、土方は山崎に馬乗りになった。山崎を見下ろす土方の手に力がこもって行く。
 殴られる、と思った瞬間、その手が止まった。上に乗っている土方の視線が、後ろの布団の中にいる近藤で止まる。布団から伸びた近藤の手が土方の制服の裾を掴んでいた。
「近藤さん?」
「よーし、おじさんと一緒に寝よう」
 怪訝そうに近藤と、近藤の手を見比べていた土方に表情が、その一言で止まった。何か思案するように長く息を吐くと、再び山崎に顔を向ける。
「お前もう帰れ」
 有無を言わせないその強制力に、山崎は頷くしかなかった。
 きちんと襖も閉めて帰る廊下は、来るときよりもずっと冷たく感じられる。土方の言葉の意味を考えないように、歩く足はいやに重たかった。

─終─



   あとがき

 自分をおじさんと呼ぶ二十代……。なんだか悲しい……。真選組隊士たちは屯所に寝泊りしてると考えていいんでしょうか。違ったらどうしよう。
 私自身が本当に寒いのが嫌いで、寒い日の朝なんて許しがたいくらい嫌いで、布団の誘惑に打ち勝つのに一苦労です。引きずり込まれたら確実に寝ますね。