要らないものなんてないんだよ

「なんだよこれー」
 近藤が借りてきたDVDを見て、長谷川が大声を上げていた。
「頼んだやつと違うんだけど!」
「だってなかったからさー」
 六缶パックのビールを丸ごと冷蔵庫に入れ、換わりにキンキンに冷えたビールを二本取り出す。
「だからってお前、別の借りるにしてもなんかもっとあんだろ」
 よく考えた結果がそれなのだ。以前同じように長谷川に頼まれたDVDがレンタルショップで見付からず、似たようなサスペンス映画を借りてきたら「違うんだよなぁ」とやたら文句を言われたことがあった。
「それ犬が死んじゃうらしいよ」
「知ってるよ!」
 大分気乗りしない様子だったが、それでも長谷川はDVDをセットし、室内の明かりを落とした。仰々しく映画が始まり、会話がなくなる。開けたビールを傾けながら、近藤は開始二十分で既に眠くなっていた。映画がつまらないわけでも嫌いなわけでもないのだが、何もせず画面を見続ける、てのがどうにも苦手だった。そわそわと普段気にならないところを気にしているうちに完全に流れから取り残されている。
 柿の種を食べながら、ぼんやりと長谷川に目を向けた。薄暗い部屋で煌々としたテレビ画面が、サングラスに反射している。外せばいいのに、と思った。見にくくないんだろうか。テレビ画面を見ていた長谷川が、そっとサングラスを直す。指先がレンズの下に滑り込んだ。ひょっとして、と言う思いが沸き起こる。
 ひょっとして、これ、泣いてる?
 注視してみると、サングラスを直す仕草で、確かに目元を押さえていた。頻繁にいじっているとは思っていたが、泣いてたのか。それじゃあ、サングラスが必要なのも頷ける。
 映画はいよいよ佳境らしく、少女が悲痛な声で犬と思しき名前を叫んでいた。長谷川の手は口を覆ったまま動かなくなる。ひとりで見ていたんなら誰彼はばかることなく泣いてたのかも知れない。そう思うと申し訳ない気持ちになるのだが、涙を隠そうとする長谷川は微笑ましい。感動を煽るやわらかい音楽と共に、スタッフロールが流れ始めていた。
 明るくなった部屋で長谷川が無言で煙草に火を点ける。煙を吐き出し、未だ起きている近藤に「珍しい」と笑った。
「どうだった。映画」
「うーん、意外によかったよ。ただ終盤のあからさまな展開がちょっとなぁ。途中まで良かった分余計な」
 噛み締めるように煙草を吸い込む。殆ど手を付けていないビールの缶を回したり傾けたりしている。
「お前は?どうだった?起きてたろ」
 近藤は空になったビールの缶をテーブルに置く。起きてはいたが映画を見ていたかと言うとそうでもなく……残念ながら内容は全く憶えていない。
「可愛かった」
「なんだよその感想。他にねぇのかよ」
 長谷川は中々機嫌がいいらしい。
「でもこういうのなら見るんだな」
 そう言う長谷川の、サングラスの奥の目は、嬉しそうに細まっているのだろう。

─終─



   あとがき

 寧ろ可愛いのは長谷川さんですよ!みたいな話……の予定でした。
 長近を書くたびに、マダオが大好きな近藤さんになってしまいます。元々かなり強引な組み合わせだしね……。