近藤先生と沖田くん

『今日忘年会だからウチ来てもいないかも(^з^)/‐☆Chu!!』
 近藤からのメールは端的かつ暢気だった。文末の顔文字に口角を緩ませながら、ふぅむと思案顔で沖田は携帯を閉じた。


「えっ!」
「あぁ」
 目を丸くする近藤に対して、沖田は今気付いたとばかりに眉を上げた。居酒屋の店先で、丁度出てきた近藤と偶々通りかかった沖田が実にタイミングよく鉢合わせたのだ。
「なんで総悟ここにいんの?」
「さっきまでザキと遊んでやして」
「もう!何時だと思ってんの!」
「……五時?」
「じゅーじ!」
 店から出てきた客たちが漫然と一塊になって歓談に興じている。近藤と飲んでいた教師たちなのだろう。見知った顔もちらほらとある。その中の一人がかったるい足取りで近づいてきた。
「なになにどーした」
 肩で近藤をどついてから沖田に視線を向ける。
「沖田じゃん。なんでこんなとこいんの?」
 学校より三割増しでだるそうな坂田が馴れ馴れしく声をかけてきた。
「偶然通りかかったんでィ」
「へぇー」
 坂田の顔ににまにまと意味深な笑みが浮かぶ。
「生徒がこんな時間ウロついてるのはよくないんじゃね?」
「俺ちょっと送ってっから、二次会行けなくなった、って言っといて」
「そうしな、そうしな」
 気安い態度で頼む近藤に、坂田はひらひらと手を振って答えた。相変わらずにやけた顔で沖田を見る。
「おもりも大変だな」
 坂田は馴れ馴れしいが嫌いではなかった。気に食わないのはさっきからずっと送られてくる、このねちっこい視線だ。少し離れた人の和から、こちらの様子を窺うようじっと見つめる土方を、沖田は敵意むき出しで睨み返す。
 あーあ心配してきてみりゃよ。油断も隙もありゃしねぇ。
 沖田と土方が睨み合っていると、近藤の手がわしわしと沖田の髪を崩した。
「ほら、帰るぞ」
「へーぃ」
 固まっていた人影が、タクシーに乗り込んだり駅へと歩き出したりと、一人二人とほぐれていく。視界の端に未練がましく見つめる土方の姿が映る。坂田が歩み寄るのを確認して沖田は視線を外した。人の流れに添っていた近藤が手を掴んだ。
「ほーら、どこ見てんだ、置いてくぞ」
 沖田の手を引きながら近藤が口を尖らす。
「あんまし遅くまで出歩くなよ。なんかあったらどうすんだ」
「女子供じゃあるまいし……」
「そうやって慢心してんのが一番危ないの!ミツバさんだって心配するだろ?夜遊びすんなとは言わんけど、言ってくれたら迎え行くしさ」
 近藤の“教師の顔”に沖田は不貞腐れる。確かに近藤から見たら華奢だし子供かもしれないが腕っ節ならそこらの野郎に負けない自信があるし、そこまでおぼこくもない。沖田から見たら近藤のほうがよっぽど危なっかしい。
「だったらあんたも気ィつけなせい」
「俺は大人だからダイジョーブ」
 慢心だなんだ言った口で……。人の気も知らないで、と内心ため息を吐いていると、近藤が少し口ごもり照れくさそうに相好を崩した。
「でも今会えてよかった」
 「なんとなく総悟の顔見たかったんだよねぇ」と子供みたいな顔で笑う。沖田は引っ張られていた足を速め近藤と並ぶと、さらにこれ以上ないってくらい距離を詰めた。
「ちょ……近くね?」
「顔見たいって言いやすから」
「うん……そうなんだけどな……」
 じりじりと顔を寄せる沖田に、じりじりと顔を離そうとする。
「いやでも近すぎね?」
「キスしたい」
「ダ、メ、です!」
「誰も見てやせんて」
「見てるから!通行人の方々が!銀時たちにも見えたらどうすんの!」
「見えない見えない」
 実際あの店からはすでに結構離れていたし、忘年会シーズンということもあって同じような団体が歩道に群れていた。もっとも坂田たちには見られてなくとも、見ず知らずの他人に目撃される可能性はかなり高いが。応力のせめぎあいでふらふらと蛇行しながらも、近藤が頑なに顔を背けようとする。沖田はその耳と首にキスをした。
「総悟ぉ」
 困り声で振り向いた近藤が素の近藤であることに、沖田は満足そうに笑みを深めた。
「今はこれで勘弁してやらぁ」
 この続きはまた後で。見せ付けてやるのもまた後で。

─終─



   あとがき

 現パロですが、現パロにする必要が感じられないことに今気付きました。友達っぽい近藤さんと銀さんが書いてて楽しかったです。