市中見廻りから戻った沖田の姿に、土方のこめかみが神経質に痙攣する。食べかけの焼きイカを筆頭に、パックのお好み焼きに焼きそば、挙げ句にPS3の箱を抱えていた。夏祭り帰りなのは一目瞭然だった。
「なんで見廻り行ったやつがPS3持って帰ってくんだ、おい。金持ちの老婆にでも買ってもらったか?」
焼きイカを食べるのに口を動かしながら沖田に呆れ顔が浮かぶ。
「そんなわけねぇでしょーが。射的でさァ」
「わかってんだよそんなこと!なに仕事中に祭り行ってんだよ!」
「パトロールですぜ?祭りの熱気に浮かされた連中はなにしでかすか分かったもんじゃねェ」
「おめーが浮かされてっから!」
土方の怒りなど気にも留めず、部屋に戻ろうと脇を通り過ぎたところで沖田は「あ」と足を止めた。思い出して持っていたビニールの小さな袋を土方に渡す。
「万事屋の旦那からでィ」
その名前に土方の顔がわずかに強張るのを沖田は見た。透明な袋の中で赤い金魚が一匹、尾びれを振っていた。
悠々と泳ぐ金魚が水面を揺らす。袋の水が電灯の明かりを反射してチカッチカッときらめいている。胸びれが小さな八の字を描いて水をかく。
「水槽あったっけなァ」
壁に背を預け、視線の高さに掲げた鮮やかな金魚の影を眺めながら、近藤は呟いた。水を屈折する光の加減で土方の姿が歪んで見える。風呂上りの土方がタバコの箱を取り上げている。
「モテモテだなぁトシは……」
浴衣の後ろ姿を金魚が横切っていく。後ろ姿が振り返った。狭い袋の中で金魚が水面との境界を辿る。土方の手が伸びてきた。手首を掴まれ視界から金魚が退かされる。
「独り占めでもしたいのかよ」
火の点いていないタバコをくわえたまま、立ち膝で近藤を見下ろす。
「独り占めしろよ」
たぷん、と金魚の入った袋が畳に落ちる。くわえていたタバコは音もなく近藤の胸へ落ちた。
「あんたで俺を縛れよ。身動きできないくらいに。息もできないくらい」
土方のえらに近藤に手が触れた。顎骨をなぞり、えらから首、喉へ滑らせる。鎖骨を越え浴衣のあわせを割き、左胸に手のひらを合わせる。熱を帯びた肌は手のひらに吸い付く。肺が膨らみ空気が吐き出される。鼓動が伝わる。
「息ができないのは可哀想だな」
「もうずっとできてねぇよ」
零れた水が畳に染みを作る。濡れた畳の上で赤い金魚が喘ぐように跳ねた。
─終─