「土方さん、じゃんけんしましょうや」
部屋に居た沖田が急にそんなことを言い出した。「てめェはそんなに暇なのか」と呆れる前に、間の抜けた調子で「じゃーんけーん」と合図を出されたせいで、長年自分の体に染み付いてきた癖とも取れる妙な使命感で土方は、
「ぽん」
と同時に握りこぶしを突き出していた。くだらないと思いながらも乗ってしまった自分に些かげんなりしながら、じゃんけんを持ちかけた当の本人を見た。へらへらと笑う沖田の右手は人差し指と中指が伸びている。いわゆる“チョキ”の形だ。
「やっぱり土方さんには勝てねェみたいでさァ」
「そんなの偶々だろう?次やったら今度はてめェが……」
「アンタはきっとあの人には勝てねェはずですぜ」
へらりと笑う沖田の言葉に、律儀にも土方の心臓は一瞬ドキリと跳ね上がった。回りくどく「あの人」と表現されても誰を指しているのかすぐに解る。土方を動揺させるためにわざわざそんな言い方をしたのだとしたらそれは成功だった。だが沖田はそんなつもりではなかったらしく、相変わらずの表情を向けている。
「試しに今みたいにやってみなせィ。アンタがグーを出したら近藤さんはパーを出しますぜ」
「それが何だってんだ」
「同じだと思いやせんか」
沖田の視線から逃れるように土方は取り出したタバコをくわえた。その先を聞くのが何故か怖かった。
「アンタは近藤さんが好きで、近藤さんは俺が好きで、俺はアンタが好きでしょう。三すくみでさァ」
おんなじだ、と沖田が口の端を上げる。
「互いが互いを睨み合って身動きが取れなくなっちまう」
「今が続いていくなら良いじゃねェか」
吐き出した煙が空中に溶ける。あいこも睨み合いも、何一つ進まない代わりに下がることもない。とどまり続ける現状が一番平和だと思った。そうも言っていられないのだろうか。
「そんなんだからいつまでも勝てねェんですぜ」
そう言うとチョキを出した男はにひゃりと笑った。
─終─