背中合わせ

 金属のぶつかる高い音が近藤の耳を覆った。鈍く光る金属の棒が視界を横切っていく。
「ウソォォ、名刀虎鉄ちゃんが!!ウソォォォォ!!トシ、これ、虎鉄ちゃんが…ウソォォォ!!」
「うるせーな、言ってる場合かよ!」
「だってお前コレまだローンが…ウソォォォ!!」
 背後でした土方の舌打ちに、近藤は思わず無残な姿になった刀を握り締めた。
 祭りに乗じて動くと思われた高杉の代わりに、将軍を狙撃してきたのは大量のカラクリだった。幸いにも将軍は早々に安全な場所に避難させたため、怪我はないらしい。だが、それでもカラクリが動きを止めることはなかった。暴動を阻止すべく大量のカラクリの中に入っていったまでは良かった。然し数え切れないほどの相手に耐え切れず、近藤の愛刀は真っ二つに折れてしまった。
「あんたはもう良いから、下がっててくれ」
 周りの喧騒に押されぬよう張り上げた土方の声が、立ち竦む近藤を責めていた。
──当たり前だ。
 土方のいる後ろ以外は皆敵に囲まれた状況で刀を折られるなんて、愚かとしか言いようがない。相手が生身の人間ならまだしも金属で覆われたカラクリでは、武器も持たない人間がいたって邪魔なだけだろう。余計な足手まといが増えた分、土方や他の真選組隊士が危険に晒される可能性が高くなる。それは解っているのだ。
 近藤は柄だけ残った刀を手放すと、代わりに瓦礫の山と化したカラクリの残骸の中からまだ無事そうな刀を掴んだ。誰のとも知れないがないよりはマシだ。
「おい、あんた何やってんだ!おとなしく下がってろよ!」
 近藤の動きに気付いた土方が怒鳴った。口調から表情が険しいのが判る。
「そんななまくらでやろうなんて、あんた死にてェのか!」
「悪ィな。俺はただトシの背中を他の奴に譲るのが嫌なだけなんだ」
 後ろから聞こえる小さな溜息が耳に痛い。自分勝手なのは承知の上だった。
「……あんたつくづく馬鹿だな」
 土方の言葉に苦笑すると、近藤は構えていた刀をカラクリに向かって振り上げた。が、一瞬早く近藤の手を土方が掴んだ。振り向きざまにそのまま、正面にいたカラクリを蹴り飛ばすと、強引に近藤から刀を奪い取った。
「トシ!」
 急に横に来た土方を驚いて見やる。と同時に土方自身の刀が手の中に押し込まれた。訳が解らず手の中の刀と土方を見比べる。すぐに後ろを向いてしまった土方の横顔は困惑気味の近藤の視線に気付き、手にした刀に一瞥をくれた。
「こんなんじゃ、あんたには不釣合いだろ」
 刀から視線を外すと、にやりと目を細めた土方が首を傾け近藤を見上げた。隠れるようにするりと近藤の背後に移動した土方を追って首を回す。
「良いのか、トシ」
 確かに比べ物にならない程土方の刀のほうが、質が良いだろう。然し、近藤に刀を渡すことで土方が危ない目にあうなら、ここに留まる意味がない。本末転倒というものだ。刀を返そうとするのを土方の言葉が遮った。
「俺もあんた以外に自分の背中、預ける気はねェってことさ」
 護ってくれるんだろ、と微かに凭れてきた背中が暖かかった。

─終─



   あとがき

 背中合わせ、ていう状況大好きです。互いに信頼している感じが。それにしても近藤さんは実際虎鉄ちゃんの柄をどうしたんでしょうか。あのまま持ってるのは邪魔だろうし、かと言って捨てるのは忍びなさそうだし。全部終わったら拾って帰るんだろうか……。