軽く手を合わせ近藤が青いビニールシートをめくった。まだ二十代と思しき男女の顔に若々しい生気はなく、青白い顔で寄り添っている。二人の手首をつなぐ赤い帯紐が今生の別れを拒んでいた。
「七夕に心中たァ粋なもんだ」
沖田が横顔に声をかけると、近藤は苦々しく顔を歪ませた。
「短冊に書くだけじゃ叶わないと思ったんだろ」
明言はできないが、女のほうは百華から捜索願の出ていた遊女に間違いないだろう。客だったはずの男がいつしか大切な人に変わり、二人は悲しい結末を迎えてしまった。幸いにして発見が早かったため水死体にしては綺麗な顔をしている。人目につきにくい地味な色の着物とは対照的にきちんと引かれた紅が、生前の女の美しさを物語っているようだった。
丁寧にシートをかけ直すと、やりきれないと言わんばかりに近藤が立ち上がった。河川敷の砂利が苛立った音を立てる。第一発見者の聞き取りから戻った土方が近藤の様子に呆れの色を見せた。
「凹みすぎだ、あんた。知り合いだと思われるぞ」
「だってよぉ……また引き離されるんだろう?」
「男の方はいいとこのボンボンらしいからな」
取り巻く人間関係が円満だったとは考えにくい。苦しみながら亡くなったであろう二人の穏やかな死に顔が皮肉だった。
「そんなに追い詰めちまってどうするんだよ。なぁ。トシも総悟も嫌でしょ俺とお妙さんが心中したら!いや、反対されてないけどね!応援されてるって、知ってるけどね!」
「カップル見たら一々自分に置き換えんの止めろよ」
「近藤さんが迫ったところで返り討ちにあって仕舞いでさァ。無理心中にもなりゃしねェ」
親友二人が冷たい。という目を向けてくる。心外である。
土方と沖田の目があった。こういう時の土方と沖田は恐ろしく意見が合う。一度交差しただけの視線で、二人は近藤を挟むように並んだ。土方が肩を組み、沖田が腰を抱く。
「あー……ひょっとして今のって反対されたら心中も辞さないって意味か?」
「えっ」
「近藤さんは友達より女を選ぶんですね」
「ちが……っ」
「そりゃ惚れた女のほうが大事だよなぁ。俺たちなんて所詮友達でしかねぇしなぁ」
「でも俺……近藤さんは違うと思ってやした」
「大事だから!トシも総悟も大事だからァァァ!」
ああショックだ残念だと大袈裟に嘆いて見せれば、やにわに近藤が慌て出す。訂正しようと躍起になる姿に多少気をよくしながら、構わず土方と沖田は雑談を続けていく。
「生まれ変わったら二人で、か」
「土方さん、あんた生まれ変わっても一緒になりたい相手っていますかィ」
「ちょっと思いつかねぇな。お前は?」
「俺もいやせんね」
「羨ましい話だな」
「生まれ変わりってそんなに簡単に出会えるんですかね」
「一生かけて捜すんじゃねぇの」
「はぁ、お熱いことで」
土方と沖田の間で近藤は震えていた。涙声が叫ぶ。
「なんでそんな冷たいこと言うの!トシと総悟も一緒に捜してよ!」
合縁奇縁の輪廻の果てに、惚れた女はいなくても親友二人はいるらしい。思わずこぼれた溜息が土方と沖田の口をつく。
運命と言うならば、近藤に捕まったのが運の尽き。狂乱の女よりずっとタチが悪い。
「しょうがねぇなァ」
「あんただけじゃ見つけられっこねぇでしょうからね」
心中立ててやろうじゃないか、前世だろうが来世だろうが。極楽だろうと地獄だろうと。
願いもせず祈りもしない夜ではあるが、せめて晴れればいいと沖田は薄曇りの空を見上げた。
─終─