「なァ、総悟。ひょっとしておまえ、トシのこと好きなのか?」
暖かい陽射しの降り注ぐ縁側でうとうとしていると、突然現れた近藤が突拍子もないことを言い出した。予想だにしていなかったことに半分寝ていた頭は働かず、一瞬言葉が詰まる。
「何ですかィ。藪から棒に」
表面上は平常を保つと、どうにかそれだけを答えた。近藤はそんな沖田をさらに動揺させるようににやりと笑うと、顔を近づけてくる。
「俺にまで秘密にしてる必要はないんだぜ?トシには言わないからよ」
「ちょっと待ってくだせェ。どうして俺が土方さんを好きだって話になるんですかい」
隣に腰掛ける近藤はすっかり「頼りになる相談相手」の顔になっている。困ったもんだと思う反面、陽射しの暖かい縁側に二人で背中を並べるのは幸せを絵に描いたようだ、と沖田は目を細めた。話の内容が違えばもっと良いのにと、ふと願う。
「でもなァ、いくら好きだからって意地悪ばかりしてちゃあ逆効果だぞ。素直に相手にぶつかっていかなきゃ解ってもらえないからな」
先にした沖田の反論は綺麗に無視して、近藤が神妙に頷いた。その言葉でようやく、近藤の勘違いは自分が土方に対して頻繁に行っている悪ふざけが原因度気付く。すっと笑みが消えたのが自分でも判った。
「逆ですぜ。俺は土方さんが嫌いだからあんな行動に出てしまうんでさァ」
冷たい声をしていたのだろう。近藤の表情が一瞬曇った。それを見て沖田はいつもの笑顔に戻る。
「冗談ですよ」
明るい声の調子に安心したのか、近藤が安堵の色を浮かべた。が、それもあっという間に悪戯っぽい笑みに変わる。
「俺にも秘密にするつもりかよ。恥ずかしがりやだなぁ、総悟は」
本当のところはどうなのかと訊いてくる近藤に笑って応える。沖田が何も言わない意味を、何もいえない理由を、近藤が本当に考えてくれてはいないのだとしても、あの優しい目がこっちを向いているなら良いように思えた。幸せな夢を見られるなら、眠り続けるのも悪くない。
然しそんな思いも、沖田の後ろから来る気配に気付くまでだった。近藤の視線がそこで止まるのと同時に、夢は淡く消えてしまう。その目に浮かぶ色だけで、振り返らずとも背後にいる人物が誰か容易に知ることができた。
「仕事もしねーでこんなとこで日向ぼっことはいい身分だなァ」
「よお、トシ。お前も入るか?」
「入らねェよ!」
土方が現れた途端ニヤニヤと沖田と土方の二人を見比べた後、近藤が意味ありげな視線を投げかけてきた。どうも誤解は解けていないようだ。はっきり否定しなかったのも悪いのだが、思わず苦笑してしまう。そんなところも近藤らしい。
「遊んでるとこ悪いんだが、近藤さんちょっと良いか?」
コソコソ動いている近藤に土方は冷静に言い放つと、先に縁側を歩き始めた。それに駆け寄る前に、近藤が沖田の背中を叩いた。内緒話のように声を潜める。
「好きな相手には自分の気持ちに正直になれよ」
にやりと笑うとそれだけを告げ、すぐに土方の隣へと行ってしまった。立ち去る二人の背中を見ながら、胸の内がじんわりと燻るのを感じる。
近藤の隣には土方の存在が当たり前で、そこに誰かが取って代わるなんて不可能なことくらい十分解っていた。解っているからこそ悔しくなる。土方が居なければ、と思ってしまう。嫌いなわけではないのだが、どうしようもない苛立ちが起きた。
「俺が自分の感情に正直になったら、アンタが一番辛くなるんですぜ」
悪ふざけで済まされるくらいで丁度良い。だがその望みが届かないことを誰よりも沖田自身が知っていた。いつか歯止めが利かなくなるその日まで、せめて気付かれずに過ごしていきたい。柔らかな陽射しに包まれて、眠るように目を閉じた。傍らに置かれた刀が、冷気を漂わせている気がした。
─終─