四方山話

 松平との食事から土方が戻ってきたので顔を出してみたが、どうにもお疲れの様子なので近藤は早々に退散しようとしたのだが、土方は
「あんたがいたほうが疲れが取れる」
などと口走り袂を掴んでくる。珍しく素直に甘えてくるので甘えてあげることにする。抵抗もせず引っ張られるままにしていると土方の膝に寝かしつけられた。
「これ逆のほうがよくね?」
 重いだろうに気にするそぶりもない。安定させるみたいにポンポンと近藤の胸元を叩き、クシャクシャと髪を欠き崩したりしてくる。膝の上から見上げた土方は実に美味しそうにタバコを吸っていた。硬かった表情が和らいでいることに近藤はほっとする。
「とっつぁんと何話してきた?」
「内緒」
「うわーやらしー」
 松平と土方の食事は近藤らのそれとは違い、秘匿めいたところがある。土方が言おうとしないなら無理に聞き出そうとはしないが、険しい顔で帰ってきた土方を迎えるのは辛い。
 土方の手が優しく近藤の髪をすく。時折肌に触れる指先がひんやりと冷たい。
「湿ってる」
「トシも入ってこいよ」
「一服したら」
「このままだと濡れるぞ?」
「いいよ。どうせ着替えるし」
 会話が途絶える。沈黙がゆったりと流れて行く。アルコールの匂いがほとんどしない隊服から土方のタバコの匂いがする。冷たかった土方の手が少しずつ暖かくなっていくのが分かる。
「なぁ、近藤さん、もし俺が馬鹿な決断したらどうする?」
 穏やかな声音に反する、不自然な息遣いだった。土方の心音まで聞こえてきそうだ。
「怒るよ」
 近藤の気持ちは落ち着いていた。寝物語を読み聞かせる母親のような安らいだ響きさえある。
「馬鹿ー!て怒る」
「それから屯所に連れて帰って美味しいご飯食べさせて、暖かい風呂に入れて、干した布団に寝かせて」
「その間に俺の一存で決めてくる」
 近藤は土方から視線を逸らさない。見つめられた土方の視線に困苦と愛惜の色がにじむ。
「だからトシは全部俺のせいにすればいい」
 近藤は膝の上から起き上がると、丸まった背中に渾身の力で喝を入れた。
「しゃきっとしろよ。背筋伸ばせ、土方副長!」
 ニッと笑うとそれにつられてか、痛みで歪めた顔にようやく笑顔らしい笑顔が戻った。
「ちったぁ加減してくれ」
「すまんすまん。ほら、布団敷いといてやるから風呂入ってこいよ」
「おー」
 灰を落としたタバコはすっかり短くなっていて、名残惜しそうに土方がもみ潰す。重い腰を上げて立ち上がった土方は「俺だって馬鹿な決断はしたくねェよ」と障子戸に手をかけた。

─終─



   あとがき

 『悪い話』後、屯所に帰ってきた土方。補足というより単純にごちゃごちゃ話してる二人が書きたかっただけです。