自分の家以上に勝手知ったる他人の家を沖田は我が物顔で上がっていく。おばさんから部屋にいることを聞くと、階段を上がり手前から二番目のドアをノックなしに開けた。
「わかんないとこがあるんで教えて下せぇ」
コントローラを握った近藤が顔を上げ「あ、総悟」とのんきな声を出す。テレビの画面には二次元の美少女がテンプレめいた台詞を喋っていた。ごちゃごちゃしたローテーブルの上を適当にどかし空いたスペースに持ってきた教科書とノートを置く。
「ゲームなんかしてていんですかィ。あんたも受験生でしょう」
「息抜きだから!で、なんだって?どれどれ?」
沖田が開いた教科書を覗き込んだ近藤が途端に暗い顔になる。
「△ABOは直角三角形なんで……」
「……」
「三平方の定理の応用で高さを置き換えるとこまでは……」
「…………」
「……近藤さん」
「な、なに?」
「近藤さんも受験生ですよね、大学の」
「う、うん……」
「大丈夫なんですかィ」
「うん……たぶん……トシも協力してくれるって言ったし……」
「……」
「あ、トシ呼ぼうか。そうすりゃ三人で勉強できるし」
近藤は名案とばかりに手を打つが、初めから近藤の学力に期待してきたわけではない沖田としては土方の乱入など論外も論外。それどころか近藤が土方を頼っていること自体面白くない。深々と吐かれた沖田のため息に近藤はしょんぼりと頭を垂れ、しかしやけっぱち気味に口を尖らせた。
「大丈夫総悟受かるよ。俺と違って頭いいもん。俺は必死に勉強しなきゃ入れなかったけど」
「そん時も土方さんが手貸したんですよね」
剣道が強いその高校にどうしても入りたかった近藤が毎日毎日土方と勉強していたことを沖田は覚えている。同じ高校に、近藤が行っていたという理由で今は沖田が目指している。合格しても近藤はいないというのに。
猛烈な虚しさに襲われ沖田はその場に寝転んだ。近藤が置いたコントローラを手に取る。こんな二次元の女ですら近藤と同級生だ。
「近藤さん。留年してくだせェ。俺と一緒に登校しやしょうや」
「そんな心配しなくてもすぐ友達できるよ」
挙げ句「彼女もできるよ」とまで言ってくる。“勲”で二次元女に暴言吐きまくってたらコントローラを取り上げられた。
「友人も恋人も近藤さんがいりゃそれでいい」
「えーそれはそれで嬉しいけどさぁー。だいじょーぶ、だいじょーぶ。そんなナーバスになんなくても楽しい高校生活が待ってるって」
伊達に何年も幼馴染はやっていない。近藤が底抜けの楽天家で底なしのお人好しなことはよく分かっている。分かっているが、鈍すぎる。イラッとくるほど鈍すぎる。