「同じこと土方さんが言ったらどうしやす」
起き上がるなり問いかけると、首を傾げた近藤が疑問符を浮かべて思案する。
「慰めるかな?」
ドンマイ土方。ざまぁ。
「じゃあクラスの仲いい女子に言われたら?」
頭上の疑問符の輪郭がじわじわと溶けていくのが見えるようだった。解答の一端を掴みかけた近藤に冷ややかに方向性を示唆する。
「え?」
「そういうことなんで」
手早く教科書を片付け立ち上がる。
「受験勉強の合間にでも考えて留年してくだせぇ」
そう言い残して沖田はドアを閉めた。階段を降り、夕飯を用意してたのにと言うおばさんに礼を述べると近藤の家を出た。街灯の明るさが目立つほどに夜が深まっている。近所のよく吠える犬が何かに対して吠えているのが聞こえた。
「総悟!」
名前を呼ばれ声の方向を見上げると、部屋の窓から近藤が身を乗り出していた。沖田が振り返ったのを確認して近藤が続ける。
「さっきのってやっぱりそういう……」
「近藤さん」
遮った声の緊張に沖田は気付いた。急いた心臓が早鐘を打つ。
「この前の模試でA判定だったんでィ」
恐れているのか、柄にもなく。
「これで落ちたらあんたのせいですぜ」
「総悟」
近藤が再び沖田の名前を呼んだ。
「総悟がちゃんと言ってくれたら俺もちゃんと答えるよ」
予想外の言葉に、本当に息が止まった。一瞬酸素が供給されなくなった脳を急いでフル稼働させる。
「高校生活が楽しくなるかは自分次第ってことさ」
いつの間にか形勢は逆転、余裕綽々の笑みで近藤はひらひらと手を振る。
「もし今言っても答えてくれるんですかい」
「いいけどなんて答えるかは分かんないよ」
思わせぶりな返答に沖田は苦虫を噛み潰す。だがその口角には笑みがにじみ出てくる。口元が弛んじまって仕方がない。
「せいぜい受験勉強頑張ってくだせぇ」
冷静を装った口調も負け惜しみにしか聞こえないが、別にそれでもよかった。今にきっと年の差なんて感じさせなくしてみせる。追いついて、追い越してやろうじゃないか。覚悟してろよ。
─終─