強欲アコギ

 テンパりすぎて自分ですら分けわかんないくらい支離滅裂な俺の言葉を、遮ることもせずじっと聞いていてくれた近藤さんが少しかすれた低い声で「嬉しい」と答えた。
 思わぬ形で告げることになってしまったが、近藤さんは俺を拒まずにいてくれた。それだけで十分だった。負担になるのが何よりも嫌だった。それ以上は望まないし、望んでいない。
「トシ……」
 一層かすれた近藤さんの声が少し震えていて、伸ばされた手も少し震えていることに気付いて、全身心臓の塊になっていた俺は爆死寸前まで来ていた。バクバクと煩いくらい激しく鼓動してるくせに急に切なく締め付けられる。
「そりゃねぇですぜ、近藤さん」
 近づいてきた近藤さんの顔が急に横方向にずれた。総悟が近藤さんの左腕に引っ付いている。
「俺だって近藤さんが好きなのによぅ」
「そうか……それなら仕方ないな」
「ちょと待て仕方ないってなにが!」
「誰が一番なんてそう簡単に決められるもんでもないだろ?」
 あっけらかんと言ってのけたそのアホ面が、ずるりと二つに増えた。首から肩、肩から腰へと分岐点は下がっていき、最終的に完全二人の近藤さんが現れた。視線が同じ高さにあるので、少し背が低い以外は元の近藤さんとなんら違わない。総悟に腕を掴まれているほうの近藤さんが口を開いた。
「俺は総悟が大事だし」
 続いてその隣の近藤さんが口を開く。
「俺はトシが好きだ」
 こここ近藤さんが俺のこと好きだと……!
 人間が分裂したのもどうでもいいくらい浮かれていると、二人の近藤さんが引き寄せられた。その間からムナクソ悪い顔が現れる。
「俺にもちょーだい」
 肩から顔を出した万事屋がへらっと笑う。
「失せろ万事屋。てめェにやる近藤さんはねぇ」
「ひでー。寂しいぃー」
 万事屋が近藤さんの腰を一層強く抱き寄せる。怒りで脳みそが破裂しそうになっている俺を二人の近藤さんが「まぁまぁ」となだめた。
「別にいいだろ?」
 いいわけあるかよ!
 詰め寄る間もなく二人の近藤さんが三人に増え、身長もその分縮む。今では総悟より低くなってしまっていた。さすがに違和感を覚えてくる。我が身を犠牲にしてまで平等に分け与えようとする近藤さんの姿が痛ましい。凄まじいほどの博愛精神。寧ろ八方美人と言ってしまいたいよ、俺は。
「ならば僕だって」
 と言って現れたのは伊東だけではなかった。老いも若きも男も女も、口々に「自分だって」「自分こそ」と捲くし立て、大挙して押し寄せた。抵抗もできず、人の勢いに追いやられる。人だかりが去った後に残されたのは、体長二十センチ程度の近藤さん一人だった。すっかり小さくなってしまった近藤さんの前に膝をつく。
「すまねぇ……近藤さん……」
「何を謝る必要がある」
「俺があんたをそんな姿にしたも同然だ……。やっぱり言うべきじゃなかった。浅はかな想いなんてのは胸の内に留めとくべきだったんだ」
 近藤さんをこんな刀も持てねぇ身体にしてどうすんだ。
「すまねぇ……」
「そんなこと言うなよ、トシ。俺は伝えてくれて嬉しかったんだ」
 小さな手が俺の膝頭をはたく。見上げる眼差しはいつものように暖かい。
「随分ちっちゃくなったけど、俺はトシが一番好きだぞ」
 小さい近藤さんが力強く言い切る。嬉しい。と同時に胸の中にざわりと黒いものが生まれる。指の腹でウズラの卵大の頭蓋骨をぐりぐりと撫でると近藤さんの眼元が赤くなった。
「“俺は”?」
 なら他のあんたは?