目を覚ました土方は薄暗い今の状況に一瞬頭が動かなかったが、目につく大型スクリーンの存在ですぐに映画館にいるのだと思いだした。特に業務が忙しかったわけでもないが慢性的な睡眠不足せいでついウトウトしてしまったらしい。よく思い出せないがなにか夢まで見ていた気がすると、スクリーンの中の小人の少女に目を向ける。すでに筋を追えないほどストーリーは進行しており、土方は早々に観ることを諦めた。元々口実みたいなもので、そんなに映画が観たかったわけでもない。
隣の近藤は映画の世界に入り込んでいるようで片時もスクリーンから視線を逸らさない。青白く照らされる横顔を眺めながら、映画なんか観に来なきゃよかったと、土方は内心悔やんだ。近藤の目がスクリーンに向けられているだけで面白くない。
肘掛けに置かれた近藤の右手に手を重ね、手のひらを合わせて握る。指を絡めたところで近藤に反応はなく、近藤にとって友達同士のスキンシップの延長でしかないことを思い知らされる。爪の淵をなぞる。周りが暗いのをいいことに、とった手の甲に音を立てず唇を押し付けた。何をしても──それこそ今ここでもっと露骨に触れたとしても、抵抗こそすれ拒絶されることはない。土方が許される立場にあるからではない。近藤にとって親友・悪友の範囲内だからだ。
右手の至る所に歯を立て舌で舐め唇で触れる。許されることに付け上がり、許されるほどに渇いていく。一体いつになったら映画は終わるんだろうか。右手だけじゃ足りなくて足りなくて、近藤が目を向けるものを奪い取ってしまいたくなる。映画のスクリーンだけではない。何もかも全部、近藤が何よりも大事にしてる真選組も、仲間でさえもだ。右手を握る土方の手に力がこもっていく。あんたの中を俺で満たしたい。
それでも許してくれるんだろ?
自分に向けられない横顔に問うと
「どうした」
まるで聞こえていたかのように近藤が振り向いた。上体が傾き、土方の耳に口を寄せて囁くとすぐにまた離れる。土方が何も言わずじっと近藤を見続けていると微笑む近藤の眉尻が下がり、また顔が寄ってきた。
「映画が終わるまでもうちょっと待ってろ」
視線を合わせて眼元で微笑む。唇は触れず、甘噛むように靴先を踏みつけてから近藤は再びスクリーンに目を向けた。土方はそのまま近藤の横顔を見続けていた。繋いでいた土方の手が握り返される。
現金なものだ。たったそれだけで荒んだ気持ちが凪いでいく。近藤の目に入る全て、手を伸ばす全てを守ると誓っていたりする。
座席に深く身を沈めた。映画もそろそろ佳境のようだ。相変わらず内容はまるで分らず、この結末がハッピーエンドなのかアンハッピーなのかも判別できない。もとより劇中の人物の幸不幸に興味がない。
あんたがあんたの幸せを守りたいなら俺を忘れないことだ。
出会った頃から持て余し続けている感情を一時的に撫でつけ、土方はエンドロールが途絶えるのを待っていた。
─終─