チョーコ、チョーコと上々に口ずさむ近藤に、土方に宛てたものは近藤が食べるくせに近藤がもらったものは全部自分で食べるのかと妬ましくなりながら、諦めてノロノロと机の上から薄い箱を取り上げた。綺麗にラッピングされたチョコレートが四箱、近藤に手渡される。
「四箱かぁ。今年少なくね?」
「断ってるからな」
幸いにして三年生は二月から自由登校になっているため、例年より渡しに来る者の数自体が少なくて済んだ。今あるのはいつの間にかポストに突っ込まれていたものと郵送されてきたものだ。直接渡しに来たやつは絶対に受け取らない。
鼻歌交じりに包装紙を解いていく近藤を土方は見ていた。毎年、持って帰っていいと言っているのに、トシが貰ったものだからと近藤は頑なに拒むので、近藤がチョコを食べる様を見るのも恒例となっている。近藤は非常に真摯にチョコレートを食べる。宝石でも扱うかのように太い指で箱からつまみ出し、一粒ずつ味わって食べていく。こんなに大切に食べてもらえるなら、俺が食べるよりよっぽど報われるんじゃないだろうか。と毎年土方はわりと本気で考える。
「俺もあんたに渡しゃよかったな」
「ねぇの?」
「あるかよ」
「トシが女の子だったら違っただろうなぁ」
「止めてくれ。戯言本気にして女になりかねないくらいには本気なんだ」
土方は笑ったが近藤は笑わなかった。笑ってくれなきゃ笑い話にはならないってのに。
「なぁトシ、俺の前からいなくなったりしないよな?俺たち親友だもんな?」
縋るような目は土方に向けられている。
箱のチョコを一つつまみ上げた。近藤の口元に運び、食べるように促す。唇に押し付けると歯を開きチョコレートの塊を咥えた。土方の指の腹に体温で溶けたチョコが残っている。もぐもぐと口を動かす近藤に土方は指を差し出した。
「ほら、舐めて」
ごく、と飲み込んだ喉仏が上下した。躊躇する素振りも見せたが、近藤は極めて素直に土方の指を舐めた。唾液をまとった舌が熱っぽく当てられる。遠慮がちに舐める舌をその指で捕まえた。近藤の顔に動揺が浮かぶ。
「とひっ」
「やっぱりあんた、俺のことなんて全く考えてねぇんだな」
逃げようとのたうつ舌を強く押さえつける。痛みのためか近藤の顔が歪んだ。
「なんでだろうな、何の葛藤もないと思ったか?悩まないはずないのにな?あんたにはいらん迷惑かけたくねぇし、もう今までみたいにはなれないだろうし。蔑まれるのも、しかたねぇとか。そりゃちょっと辛ぇな、とか。あんたエロいし。俺どんだけ紳士だと思われてんだっつぅ。見くびられてんのか。ヘタレだって。あんたが今惚れてるのって誰だっけ?志村?うまくいくよう協力してやるよ。やるから、いい加減俺を、解放してくれ」
力の抜けた指からするりと舌が抜けた。
「ごめんなトシ……」
近藤の言葉に弱々しく首を振る。
「あんたが悪いんじゃない」
「トシも悪くないからな」
その脊髄反射の優しさが酷く無神経だ。蓋を開けたチョコレートは半分も減っていない。見ているだけで胸焼けを起こしそうになる茶色い塊を一つ、土方は口に含んだ。油っぽい高濃度の甘味が舌の上にべっとりと塗り広がる。なぜ皆こんなものが好きなんだろうか。近藤が何かを言いたそうにしているが土方は見ないようにしていた。もう諦めてしまいたかったのかもしれない。本日何度目かの玄関チャイムが土方の部屋にまで聞こえてきた。舌に残った甘ったるさは未だに消えず、つくづくろくな食べ物じゃないと土方は思った。
─終─