こんなにも身を案じてくれているというのに、近藤と言う人物は何処へ行ったというのだろうか。て言うか、その近藤って俺じゃないか?そういや怪我した前後の記憶がないし。その時のショックで自分が近藤だということを忘れてしまったとしても不思議はない。かなりありえない気もするが、可能性がないこともないだろう。
気がつくと俺は、目の前の人物を抱きしめていた。火の点いていないライターが病院の床に滑り落ちる。
「何すんだよ」
言葉とは逆に、声は拒んでいない。おとなしく俺の胸に頬を寄せてくる。
「寂しかったか?」
「そんなこと思うわけねーだろ」
抱き寄せた肩は服の上からでも判るくらい引き締まっていた。無駄のない筋肉で全身を鍛え上げているのだろう。その肩に力を込める。
「ごめんな……」
「なぁ、グラサン取ってくれよ。綺麗な目してるのにもったいな──」
「何やってんだ、トシィィィィ!!」
誰かの叫び声が、俺の腕の中にいる言葉を遮った。抱きしめていた俺を押し退け、先程声のした方へ顔を向ける。いなくなった腕の中が、虚しく空間を作っている。
そうか、トシって言うのか。
「は?近藤さん!?」
俺と同じように入院着を着た、いかつい男が近付いてくる。
「誰だよ、その男はァ!」
「この人は近藤局長……?いや、でもあんたが近藤さんだよな……?ちょっと待て、あんたこそここで何してんだ」
「俺はだなぁ、志村家の偵察をしてたら、いつの間にか入院しちゃってたのよ」
傍から見ていると、二人は昔からの知人のように親しげに話している。どういうことだ?近藤?
俺が全てを察した頃、トシと言う名らしい男がゆっくりとした動作で振り返ってきた。最初よりも一段と瞳孔が開いている。
「真選組局長になりすますとは、良い度胸じゃねーか」
俺の悲鳴は静かな院内にこだまして行った。
─終─