晴れ模様

 新緑の校庭を同じジャージの生徒がぐるぐる走っている。鋭いホイッスルの音も聞こえてくる。屋上には近藤以外誰もおらず、授業中の学校は至って静かなものだ。空は快晴。雲ひとつない。
──このまま誰の来なけりゃいいなァ。
 元々立ち入り禁止ではあるが、鍵は内側から簡単に開けられるし、見付かったところで厳しく咎められるわけでもない。それこそ休み時間ともなれば数人の生徒が現れるだろう。
 フェンスに背中を預けそのまま座り込む。空しか見えなくなる。
──帰りてぇ。
 何もない青空だけが目に映る。時折吹き抜ける風が耳を塞ぐ。
──帰りてぇぇ……。
 だがそういうわけにもいかない。今度は溜め息を吐き出した。
 どういうわけか、このところ土方の様子がおかしい。避けられていると言うか、近藤に対して怒っているようにも見えた。心当たりは、ある。
──バレた?
 近藤の土方への好意を。
 考えただけで血の気が引く。気付かれまいとして先に距離を置き始めたのは近藤のほうだった。それで土方がよそよそしくなるのも無理ないことだとは解っている。解っているが、実際にその状況に陥ると非常にキツイ。
 顔の前で両手を合わせる。今帰ったらこれまでのように顔を合わせられなくなってしまいそうだった。
 なんとか放課後までに話す時間を作ろう。変わらない友達付き合いが出来るんなら、それが一番いい。両想いなんて虫のいい話など、端から期待していない。気づかれてなくていい。そして、もし土方が、顔も見たくないと言うなら、そうする覚悟も出来ている……つもりだ。
 近藤は目を閉じた。嫌われるのが怖いなんて初めてかもしれない。
──好きになってゴメン。
「近藤さん」
「うおぉぉおぉ!」
 名前を呼ばれ、弾かれたように立ち上がる。校舎と屋上とを繋ぐドアの前に土方が立っていた。大きく息を吐き、ワイシャツの袖で額の汗を拭っている。
「こんなとこにいたのかよ」
 結構捜したと言いながら近付いてくる土方に、思わず及び腰になる。話す時間を取ろうとは思ってたけど、思ってたよりちょっと大分早すぎる。汗が吹き出るのは気温のせいだけではない。
「トシ、お前、授業は?」
「そりゃあんたもだろ」
 じりじりと後退している近藤に、イラついた表情を見せる。
「あんた、俺に言うことあんだろ」
「言うこと……」
 言いよどむ近藤に土方は近付くのを止めた。二人の間に三メートル弱の距離が出来る。
「二ヶ月前か?そんぐらいから急によそよそしくなったの、それのせい?」
「……ゴメン」
「ゴメンじゃねェよ」
 風の音に混じって土方の溜め息が聞こえる。
「言いにくいのも解っけど、少しくらい言ってくれてもよかったんじゃねェ?別にそれくらいであんたから離れたりしねェよ。やっぱり坂田からじゃなくて近藤さんの口から聞きたかったよ」
 突然の最終結論に思考が錯乱する。
──えっなに?これなに?万事うまくいっちゃう感じ?
──おいィィィ!そんな簡単にいくわけねェよォォ!絶対落とし穴とかあるって!
──つぅかバレてるし!誰かに!誰にだよ!総悟か?志村か?山崎かァァ!?
──あれ?
「坂田?」
「大丈夫だよ、誰にも言わねェし非難する気も毛頭ねェから。坂田もそれを心配してたみたいだけど、教師と生徒が付き合ってても──」
「は?」
 落とし穴に嵌った予感がする。
「付き合ってるって、誰と誰が?」
「近藤さんと坂田だろ」
「付き合ってねェよ!!」
 思わず大声になる。まさかそんな誤解をされていたとは。必死に誤解を解こうとする近藤に、土方が不服そうに口を尖らせた。
「だったらなんで坂田はそんなこと言ってくんだよ」
「知らねェけど!ありえないだろ、坂田とか!それに、もしそうなら真っ先にトシに言うって!」
「そう、だよな……」
 悪い、と土方が照れた笑いを浮かべた。