「ありえねぇよな。教師と生徒以前に男同士ってよ。寒すぎだろ」
「ホントなー寒すぎるよなー」
 さっきまでのふわふわした気分が一気に吹き飛んだ。近藤に空笑いばかりが空に響く。また変な汗が出てきそうだ。
「最近あんたの様子がおかしい気がしてたからさ、それで変に信じ込んだのかも。近藤さんのことは大概何でも知ってると思ってたから。冷静に考えればすぐ解んのにな」
 土方の口調が思いの外神妙で、不意に静けさが生まれた。三メートル向こうの土方が、近藤から視線を外す。取り出した煙草を弄びながら、遠くを見るようにグラウンドへ向き直った。体育の授業をしていた生徒らが整列し始めている。
「無理なんだけどな、全部知ってるなんてこと」
 咥えた煙草に火も点けず、土方は呟いた。風で黒髪が揺れる。
「トシ」
 名前を呼ぶと「どうした?」と振り返る。
「一本もらえるか?」
 右手の人差し指を立てると、意外そうな顔で「いいよ」と答える。「珍しい」と煙草の箱を差し出しながら口の端を上げた。一歩二歩三歩と近寄って、手を伸ばし煙草を摘み上げる。三メートルの距離なんてこんなに近い。空がやけに青い。まさに快晴。
「俺、トシが好きだ」
 土方の口から微かに声が漏れる。その拍子に真新しい煙草が落ちてしまった。
「他に、俺がトシに隠してることはないよ」
 もらったばかりの煙草を土方に咥えさせ、ゆっくりと微笑む。
「もう近付かないな」
 同時に授業終了のチャイムが鳴り出した。土方の脇をすり抜け、近藤は校舎の中へ戻っていった。眩しかった日射しが遮られ、急に薄暗くなる。階段は屋上から差し込む光に照らされていた。チャイムが鳴り止むとともに下から聞こえるざわめきも大きくなる。その中に紛れ込むよう、一段ずつ下りていく。
「近藤さん!」
 見上げると、険しい顔をした土方が手すりから身を乗り出していた。咥えさせた煙草はなくなっている。
「言い逃げかよ!」
「ゴメン」
 ひらひらと片手を振りながら踊り場まで出る。
「忘れてくれていいよ」
「あんた、最低だな」
「ゴメンな。言わないでいようと思ったけど無理だった」
 階段の中ほどで立ち止まり、土方を見上げた。表情が一層険しくなっている。
「だったら好きだって言ってりゃいいだろ」
「なに?付き合ってくれってことか?」
 言っていて少し意地悪だったかと思う。現に土方は口籠っていた。土方の様子をみて足元に視線を移した。全て解っていたことだ。一度止めた足を、また進め始める。
 それなのに階段を下りきる寸前、土方の言葉が、近藤を追ってきた。
「突然だったし」
 手すり伝いに一段一段、土方も階段を下りてくる。
「正直どれくらい近藤さんのことが好きだか解んねぇよ」
 踊り場まで下りると、そこで立ち止まった。手すりに添えられた手の中に、煙草が握られていると気付く。
「それでもあんたが俺を好きだって言うんなら、それ全部受け止めてやってもいい」
 土方の握っていた手が開き、指先に一本の煙草が現れる。とん、と階段の手すりで一度叩いてから口に咥えた。火の点いた煙草がゆっくりと煙をくゆらす。
「戻ってこいよ」
「偉っそうだなァ」
 思わず苦笑する近藤に、土方が意地悪く笑う。
「そんなとこも好きなんじゃねェの」
「凄ぇ好きだよ!」
 二段飛ばしで駆け上がる。開けっ放しのドアから見えるのは雲ひとつない青空。やっぱり、本日快晴。

─終─



   あとがき

「やっちゃった!」て感じです。やっちゃった!凄い恥ずかしい!告白を書いてみようとしたらこんなことに……。書いてて混迷を極めました。