「だっておまえ……」
「俺が?」
 表情から漏れた一瞬の本音も見逃さない。
「俺があんたに惚れてると思ってやした?」
 沖田が距離を縮めるごとに、近藤が後ずさる。どしっとその広い背が窓ガラスについた。二十五階の絶景がレースのカーテンの隙間から覗き見える。胸に挿した生花の香りが鼻についた。
「そんな嫉妬に狂った女みたいな目ェ、しねぇでくだせェ」
 沖田のわざとらしいほど柔らかい笑みに、屈辱感で顔を紅潮させた。掠れた声で「違う」と呟く、それが沖田の感情を逆撫でた。口を突いたのはぞっとするほど冷ややかな声音だった。
「あん時だってあんた、信じてりゃこんな顔せずにすんだのに」
 逸らし続けていた近藤が沖田と目を合わせようとした瞬間、さらに一歩詰め寄った。反射的に近藤がぎゅっと目をつぶる。
 追い詰められても目を閉じるなと教えてくれたのは近藤だろ。目を閉じてしまったら自分の命運を相手に委ねることになると。
「やめろ、総悟……」
 蚊の鳴く声で呟く。
「近藤さんだけは俺のこと信じなきゃダメですぜ」
 眉根には強く皺が寄り、伏せられた睫毛が震えている。頬の前に手をかざしてみたが、触れることが出来ず空を掴んだ。下ろした指を絡めることも叶わない。
 うやうやしく近藤の左手を取ると、何もはまっていない薬指に口付けた。驚きで目を開いた近藤を上目遣いに見つめる。
「結婚おめでとうございます」

 控え室を出ると、すぐ横の壁に土方が背を預け立っていた。諌めるような視線に、沖田は肩を竦めてみせる。
「あんま悪趣味な真似すんなよ」
「式中に新郎連れて逃げるとかですかぃ」
 沖田としては冗談のつもりだったが、土方は何も言わず心底不愉快そうに顔を歪ませるだけだった。
「土方さんて」
 なんだよ、と顔を向ける。
「いい人ですよね」
「なにお前、きもっ!」
「嘘でさァ」
 どよめく土方をばっさり切り捨て歩き始める。人の気配とざわめきが増えてきた。今日の式に招かれた者たちが思い思いに集まり談笑している。方々から向けられる着飾った女たちの視線にさらされ、沖田はげんなりと眉をひそめた。沖田より数段上の熱視線を土方は慣れた様子で無視している。
「どうしてこう、どいつもこいつも結婚なんてもんに浮かされんだか」
「そう邪険にすんな。とっつぁんの知り合いかもしれねェだろ」
「今時バツの一つや二つ珍しくもありゃしねェってのに」
 土方は客の中に松平の姿を見つけたらしい。さらに他の顔も目ざとく見定めていく。よそに向けていた視線をちらっと沖田に寄越した。
「やっぱお前性格悪いな」
 そう言って肩を叩く手に慰めを感じ、沖田はその後ろ姿を苦々しく眺めるのだった。

 皆々様お越しいただき真に(中略)。新婦の(中略)さんは大層な子供好きでありまして(中略)は二人で(中略)と(中略)に(中略)の(中略)(中略)鍋(中略)(中略)(中略)(中略)(中略)(中略)幸せになっちまいな!!

─終─



   あとがき

 土方さんがとってもノーマルぽくなって感激しました。やれば出来るじゃん、自分。