「て……てめ……」
 口は言葉が出てこず、パクパクと開閉ばかりを繰り返す。
「悪ィがあの人の人生に真選組は一生ついて回るぞ。それが耐えられねぇんなら早いとこ別れたほうがいい」
 確かに正しいよ。付き合った翌日に、組を挙げて挨拶に来るぐらいだ。重たいなんてもんじゃない。そりゃモテねェだろうよ。滅多に会えないくせに、しょっちゅう電話が来るしすぐ帰るし。もっと面倒がなくて可愛げのあるやつなんていくらでもいる。だがな。だが、だからこそ──
 ドン、と足を踏み鳴らし、勢いよく立ち上がった。
「俺がその程度の覚悟で告白したと思うなよ!」
 その瞬間土方が微笑んだ。強請りのネタを握った悪徳刑事にしか見えなかったが、おそらく土方は優しく微笑んだ。
「その言葉、忘れんなよ」
 義弟よ!
 不覚にもグッと来ました!
「銀時?」
 愛しい声に顔を向ければ、土方の開けた障子の隙間から、近づいてくる近藤の姿が見える。入れ替わりに土方が場を外した。すれ違いざま土方が意味ありげな一瞥をくれ、近藤が困ったような笑みを浮かべていた。
「もう帰ったかと思った」
「無言では帰らねェよ」
 その一言だけで嬉しそうになる近藤にきゅんとする。
「仕事は?もういいの」
「おー。さっきトシと何話してたんだよ」
「いやぁ……世間話?」
「銀時がな、仲間の心配してくれたりトシと話してたの見て、なんか嬉しかったんだ」
 不本意ながらも俺自身、土方からいろんなことを思い出させてもらっていた。思わず漏れてしまった感情を、ちゃんと伝えるまでの一週間の葛藤だとか、返事がくるまでの苦さだとか、それよりずっと前の長い日々だとか、この半年間の幸せだとか。揃って縁側に腰掛け、なんでもないことを話しているだけでどうしようもなく愛しさが満ちてくる。無造作に投げ出された手に指を絡めれば、顔を赤くして気恥ずかしそうに俯いてしまう。
「おまえ本当に可愛いな」
 土方が人払いしてくれたのか、辺りに人の気配はしない。ありがとう義弟よ。その調子でお願いします。
「からかうなよ」
「勲」
 上体を傾ければ呼応するように近藤も顔を寄せてくる。ゆっくりと唇が重なる。豊かな下唇を軽く食み、やわらかく押しつぶす。長く時間をかけた口付けが離れると、薄く開いた唇から熱っぽい吐息が漏れた。それに誘われるよう再び顎を上げようとするのを、「ごめんな」と謝罪の言葉が遮った。
「俺、仕事ばっかで。今日だってこんな予定じゃなかったのに……」
 近藤は近藤でかなり気に病んでいるらしく、あまり似合わない浮かない顔をしている。気にすんな、と頬を撫でた。
「お義父さんが結婚するまで手ェ出すなって言うなら、股間爆発したって守るし?」
 冗談めかしてみれば、ふ、と零れた息がかかりくすぐったい。
「誰だよお義父さんって。とっつぁん?」
 瞬時にどう見てもカタギじゃない真選組の上司の顔が脳裏に浮かび上がった。思わず尻込みしてしまう、が、挨拶に来いというなら今すぐにでも行ってやる。とすぐさま気持ちを奮い立たせる。
「なぁ、銀時」
 今度は近藤から唇を重ねてくる。
「もう遅いから泊まってけよ」
 挨拶は、明日以降でお義父さん!と息巻いた矢先、携帯のバイブ音が響いた。反射的に近藤を窺ってしまう。近藤も自分の携帯をまさぐっていたがピタリと手を止めた。バイブ音はまだ鳴っている。そこでようやく自分のだと気がついた。
『銀さん今大丈夫ですか』
 電話の向こうから新八が尋ねてきた。退屈そうにしている近藤を胸に抱き寄せ、視線だけで会話する。
「いや、あんまよくねぇけど」
『あっ近藤さんとデートでしたね。じゃあ……いいや』
「……なんだよ。言えって」
 下から近藤がじっと見つめてくる。このひたむきな感じ、グラグラくる。仄かな後ろめたさがもたらす甘さに抱き締める力を強めた。戸惑いがちに新八が言葉を次ぐ。
『実は終電なくなっちゃって──』
 五分後俺は、少しすねた近藤の顔をニヤニヤ思い返しては上機嫌で夜の街をひた走るのだった。

─終─



   あとがき

 このふたりがくっついたら、かなり家族ぐるみの付き合いになるんじゃないかと。自身の身贔屓は各々無自覚です。
 土方さんを天然ドジっこに書こうとしたものの、中途半端ゆえなんだか微妙に……。純粋に協力者の土方さんもまたよし。