到着した真選組の屯所は普段どおりほのぼのしたものだった。俺の顔を見れば旦那旦那と頭を下げていく。緊急に帰らなきゃなんない様子ではない。それ見たことかと先に奥へ歩いていく近藤を見やる。と、廊下に落ちた真新しい血痕に気付きギョッとした。近藤が開けた襖の奥には手当てを受ける数名の隊士と沖田、それと土方がいた。
「病院は」
「鼻を骨折した奴は行かせたが、あとは大したことない」
「向こうには」
「二人。これから俺も向かいやす」
「そうか」
 頬にでかい絆創膏を貼られた男が近藤にスミマセンと頭を下げる。
「いや、それ普通に大したことあるよな」
 思わず口走っていた。鍛えた大の男たちが少なからず怪我を負い、者によっては骨折までしているのに、この場にいる俺以外の誰一人憤りも悲痛も漏らさないことに違和感を覚える。捨て犬を拾ってきたときのほうがよっぽど大騒ぎをしていた。俺の発言に近藤から無言の視線を向けられ少なからずたじろいだ。
「わりとあんだよ、こういうのは。護衛つっても四六時中付きまとわれりゃイライラもするし当たりたくもなる。言っちまえば八つ当たりされんのも俺らの仕事だ」
 土方が事もなげに言ってのける。さっきはじっと見てきた近藤が視線を逸らした。「トシ」と土方を呼びつけ、何事か話しながら部屋を出て行った。真選組の屯所に来たくないのは、二人のツーカーな様を見たくないってのも大いにある。俺は傍にいた沖田のシャツを引っ張った。
「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「なんです」
「……その、まぁ、なんていうか……」
「……」
「……」
 黙って立ち去ろうとする沖田の背にすがりつく。
「待って!ごめん!言う!」
「さっさと言わねェと豆腐詰めますぜ」
「……土方は俺と勲のことよく思ってないとか……」
 二人の間に昔なんかあったとか、土方が想いを寄せてるとかとか……。鬱陶しそうだった沖田の顔つきが妙に真剣なものに変わった。
「あの人と付き合うってことは真選組ごと背負い込むってことだ。重てェなら下ろしなせぇ」


 沖田の言うことはもっともだった。縁側で一人見るとはなしに月を見上げる。多忙そうな隊士らが俺の存在を気にかけることもない。
「なんだまだいたのか」
 少々驚き気味の声に顔を上げれば、障子戸に手をかけ土方が立っていた。
「近藤さん呼んで来てやろうか」
「いいのかよ……邪魔なんだろ俺が」
 土方のふてぶてしいポーカーフェイスは変わらない。が、まとう空気が皆目見当がつかない、とばかりにぽかんとしている。痺れを切らして声を荒げる。
「やたらあいつに電話して来てんじゃねェかよォ!てめェのせいで俺のエロトピア計画が台無しなんだけどォォ!」
「……あっ!そうだな。悪い」
 なにその“今気付いた”みたいな顔。あまりに素直に謝罪されてしまい、かえって退くに退けなくなる。
「こ、これからは気ィ遣えよコノヤロー!」
 土方の視線に冷ややかさが増した。どちらかといえば“落胆”だろうか。品定めを終え、自分の中で結論が出たとでも言うように土方は呟いた。
「今までの女と大して違わねぇな」
 脳天を石斧でカチ割られたかのような衝撃!正直土方にどう思われていようが痛くも痒くもない。……はずなのにハートの傷つき方が尋常でない。