里帰り

 懐かしいはずの駅前は少しずつ開発が進み妙に小奇麗になっていた。人の通りは少なくなかったが、これがいつものことなのかお盆だからなのかはわからない。真新しい壁と古びたデザインブロックの床に目を落とした沖田はぐるりと周囲を見渡した。
「そうごー!」
 声のほうを向けば男が二人近付いてくる。近藤と土方だった。久しぶりと笑う顔は高校の時と変わらない。なんとなく懐かしい気持ちになりながら、二人に促されるまま歩き始めた。
「すっかり格好良くなっちゃって。見違えたわー」
「背ェ伸びたんじゃねぇの」
「近藤さん太りやした?」
 アスファルトの上をサンダルでペタペタ歩いていく。昼間の熱気を吐き出しているせいか足の裏が熱い。
「今回はサブちゃんじゃねぇんですね」
 サブちゃんというのは沖田たちがよく行っていた地元の焼肉屋だ。名の通った企業に勤めるエリートだったが脱サラして焼肉を始めた、おおよそ焼肉屋らしからぬ店主の風貌を思い出す。
「あー言ってなかったか?」
「サブちゃんなぁ、二年前に移転したんだよ」
 事もなげに話す二人に沖田は微かに違和感を覚えた。二人にとっては二年も前のことかもしれないが、沖田にとっては今である。少なからず気落ちする沖田を知ってか知らずか、足を止めた近藤が明るい声を上げた。
「今日はここ!」
 表通りから一本入った位置、駅から十分程度のそこは、なんてことはない居酒屋だった。新しくはあるがごく一般的な店で、特別テンションが上がる要素はない。曇りガラスの引き戸を開け、揚々と入っていく近藤に続き沖田も敷居をまたいだ。中を確認するより先に場がわっと沸きあがった。
「おー沖田だ」
「かわんねー」
「背ェ伸びた?」
 既に赤い顔した高校時代の仲間たちはわいわいと好き勝手言ってくれている。
「待ってろとは言わねぇが飲みすぎでィ」
 輪に交ざる前に店内を一望したところでカウンターの中の人物に目を見張る。丸い頭にタオルを巻いた作務衣姿の店主がニイッと口角を上げた。
「よぉ、いらっしゃい」
「原田!?」
「そう!原田の店なんだぞー!」
 照れ臭そうに笑う原田の向かいで、近藤のほうが自慢げに胸を張る。
「おま……料理できんの?」
「おっ言ったな。今夜はてめぇの胃袋掴んでやるから覚悟しとけ」
 カウンター席の隅に腰掛けた土方が灰皿を引き寄せながら原田に話しかけた。
「昼はやんねぇの」
「ランチなぁ。今考えてる」
「通うし」
 そういえばこの辺りは土方の勤務する大学の近くだったと思い出しながら、沖田は手近な椅子に腰を下ろした。カウンター・テーブル席合わせて二十席ほどの店内は狭いながらも落ち着いて過ごせるよう心尽くされているのがわかる。
「すげぇな自分の店とか」
「夢でしたからね」
 山崎がコップを握りながら感慨深げに頷く。沖田の目の前に注ぎたてのビールジョッキが置かれた。
「じゃあー総悟に乾杯の音頭を取ってもらおうかな!」
 近藤の振りに場の視線が集まり沖田は仕方なしにジョッキを掲げた。
「えー、仲間が相変わらずのクソ野郎ばかりで涙が出そうです。乾杯!」
「カンパーイ!」
 中身も量もばらばらなグラスが景気よく打ち鳴らされた。


「悔しいけどうまい」
「なー美味いだろー」
「俺と結婚してくれ!」
「断る」
「見て見て、これ見て。かっわいいだろー」