「総悟気をつけろ。長くなるぞ」
沖田が豚肉となんかの野菜がどうにかされたよくわからない料理を箸で集めているところに、永倉がスマートフォン片手に寄ってきた。肩と肩がべったりくっつく距離で見せられたのは、ひらひらの格好をさせられた赤ん坊の写真だった。大福、と声には出さないが沖田は思う。
「俺の娘。なーかわいいだろー。こっちが嫁さんの実家の祭りに行った時でなぁ」
平均より些かでかい赤ん坊の写真を見ながら、永倉がデレデレと気持ち悪いほど相貌を崩している。
「てめーそんなキャラだったかよ」
「娘の可愛さの前では男はただのパパになってしまうのさ」
世間ではそれを所帯じみると言い表すのだろうか。液晶に頬擦りしかねん勢いで親馬鹿と化した旧友を、遠い目で眺めている沖田を、近藤が笑っている。
「結婚はいいぞー」
「仕事が面白いんでいらねぇなぁ」
「お前、仕事何してたっけ」
「えー、言ってもわかんねぇし」
「諦めんなよ!そこで諦めんな!もっと熱くなれよ!」
「うぜぇ!」
新たに大皿が置かれれば鳥の雛のようにわっと集まってくる。喋るためか食べるためか口はよく動き、作った料理が平らげられる様を眺めながら原田は満足そうにグラスを傾けた。まめに食器を片づけていた山崎が、いつの間にか皿洗いに回っている。
「そういやあんた、猿飛とデートしたんだろ。どうだった」
「トシっ!おまっなんてこと言うの!違うから、あれは社の研修的なあれであって……」
「濃いいな」
「変態性高いな」
「いい加減諦めろよ。志村妙も人妻だ」
「人妻か……絶対ないと思ってたのに人妻って聞くとヤラ……ほぐっ!」
「原田ぁ水ー」
「自分で汲め」
「脱ぐなよ。近藤さん、今日は脱ぐなよ」
「脱ぎますともー!」
ああ、くだらない。くだらなすぎて笑えてくる。
アラームの鳴る寸前で目覚め、直後鳴り出したスマートフォンに手を伸ばす。沖田が大きく伸びると凝り固まった背骨がバキバキ音を立てる。見渡す限り死屍累々である。カウンターに突っ伏している者もいれば、器用に椅子の上で丸くなっている者もいる。床に倒れた近藤を踏みそうになって慌てて足を引っ込めた。そんな店内に注ぎ込む朝日が真新しくて、余計に宴のあとであることを強調させられた。
少しの間ぼんやりした沖田はスマートフォンに目を落とし時間を確認する。あらかじめそのつもりでセットしたアラームだから当然なのだが、新幹線の時間まで一時間ほどである。黙って立ち去ろうか、書置きでも残すべきか思案しているところに死体の一つが起き上がった。
「総悟、新幹線何時」
寝起きの開かない目をした土方が開口一番尋ねた。
「……あと一時間くらい」
「そうか」
沖田の返答に納得したらしい。腕時計を一瞥したきり何も言ってこない。反対に沖田は舌打ちしたい気分であった。見送られるのが嫌でわざとこんな早朝の便にしたというのに、この様子では駅までついてきそうだ。昔から土方は肝心な部分で勘がいい。その肝心な部分が沖田にとって触れてほしくないところで、苦虫を噛み潰すことがよくあった。
「近藤さん、起きろ」