激しい爆発音と同時に車両が大きく揺れた。非常灯の赤い明かりが点滅する。
「土方のヤロー、派手にかましすぎだぜィ」
刀を納め、沖田が薄汚れた窓に目を向ける。
「まるで他人事だな」
積み重なった死体の山を一瞥し、篠原は吐き捨てた。これだけ殺しておいてよく言う。血と脂で窓ガラスは曇り、外の様子など見られるはずもない。
「てめェら何万の命より俺の命のが重てェんでね」
顔に付いた血糊を袖口で拭いつつ沖田はへらりと笑った。
「死んじまったら近藤さんに会えねェだろ」
むせ返る血の匂い。空気が澱む。死屍累々の地獄絵図と化した車内で沖田は妙に軽く、希薄だった。
沖田の裏切りなど伊東にとってはどうでもよさそうだった。伊東は「体のいい口約束」というが、沖田を副長に置くという話、しかし本心ではまんざらでもなかったのではないだろうか。剣の腕だけでなく、己の目的遂行には手段を選ばない潔さと非情さを、伊東は気に入っているようだった。
それなのに
「伊東先生が近藤より劣るとでも?」
「現に劣ってるじゃねェか。近藤ひとり殺すのに、どれだけ大ごとにするつもりでィ?」
「お前らこそ近藤ひとり助けるのに大騒ぎしすぎなんだよ」
苛立ちを奥歯で噛み殺し、沖田をねめつける。口角が引きつり歪な笑みになる。
「そりゃあ、うちの近藤の人徳ってヤツかね」
面倒臭そうに沖田は言った。首を回して篠原を見やる。篠原の噛み締めた奥歯が鈍い音を立てた。
自らの手で粛正を下したい。どこまでも不遜なこの男に粛正を。例えあっけなく討ち死ぬことになってでもだ。熱い息を吐き鯉口を切ったその時、伊東の声が静かに響いた。
──冷静な目を持ちたまえ。感情は判断力を鈍らせる。
その声は暗闇で鳴る鈴の音のように、篠原を導く。急速に思考が澄んでいく。視界が開け、薄暗い車内の様子を網膜が正確に捉える。沖田がちらりと後ろを見たことに気が付いた。
力の差も考えず闇雲に死に急ぐことが、今篠原がやるべきことではない。今やるべきは沖田を近藤の元へ向かわせないようにすること。近藤の力を削ぎ、伊東の計画遂行の阻害因子を排除すること。
篠原はゆっくりと深く息を吸い、吐き出した。改めて自分の行うことを胸に刻み、篠原は刀を抜いた。
「悪いが行かせねェよ」
照明の落ちた列車の中で、白刃と同じように沖田の目が鋭く光を放つ。薄暗闇を切り裂き刀が伸びてくる。死体に足を取られ、避け損ねた切っ先が目尻をかすめ篠原の右耳を切った。血液が首筋を伝う。
車中の狭さも暗さも揺れも、沖田には関係がないかのようだ。転がる死体の全てが一太刀で仕留められていた。だが今の沖田に最初のような冴えは失われつつあるのも確かだ。流石にこれだけの人数を相手取り疲れたか。誘う剣先をかわし、間合いを取る。事を急ぐ必要はない。
「いつまでそうしてるつもりだよ」
篠原が取った距離を沖田が強引に詰めてくる。
「め、ん、ど、く、せえ、なア!」
閃光が弧を描く。素早い横からの大振り。ギン、と刀身がぶつかる。かわす刀の鎬が削れる。
「いいのかィ、早く行ってやらねェで。もたもたしてっから、てめェの先生はもう、死んじまってるかも知れねェぜ。それとも何かい、今さらこんなとこで寂しく死ぬのが嫌になったかい」
「傍らで刀を振るうだけが、傍にいることではない」
再び迫ってくる刀を今度は正面から受けた。強い衝撃に、それだけで刀を落としそうになる。篠原は沖田の腹を蹴りつけた。
「先生の志に添って殉ずるなら、それもまた本望だ」
「本当かよ」