「そりゃまだだろうが」
赤いトマトへ伸ばされた手に沖田は横槍を入れる。手を伸ばした土方が沖田のもいだトマトを睨み付ける。
「そんな違わねぇだろ沖田先輩」
「中身が違うんでィ、中身が」
「それを言うなら俺のほうだから。真っ赤だからほんと」
「俺のなんか熟れ熟れでさァ」
「俺のは熟れ熟れ熟々だからな」
「俺だって熟れ熟れ熟々の熟女でィ!」
手にしたトマトを投げつける勢いで立ち上がった。土方は竹を編んだ浅いザルにトマトを置きながら「熟女趣味かよ」などと言ってくる。最初から気に食わない野郎だと思っていたが、最近一段と図々しい。近藤も近藤だ。自分らだってけして楽とは言えないのに食いぶちばかり増やしてどういうつもりだ。それになぜだかことあるごとに沖田と土方を行動させようとしてくるのも気に食わない。今だって夕飯のための野菜を二人で取ってくるよう頼まれていた。
容赦ない日差しの照り付けを、沖田の背丈ほどもある苗が和らげる。広い畑には様々な野菜が少しずつ育てられていて、今はトマトの他にナスやキュウリ、とうもろこしなどが取れる。
「こんなもんでいいだろ」
色濃い夏野菜をふんだんに載せ土方が立ち上がる。ほら、と促す土方の脛を沖田は思い切り蹴りつけた。「いてっ」と間抜けな声が漏れる。
「なにしやがる」
「ムカついたからでィ」
「おい、ちょ、待てこら……!」
さらに蹴ろうとすると首根っこをむんずと掴まれた。
「離せバカ!土方!」
「言われもねぇのに蹴られたかねぇな」
そんなの「ムカつく」だけで十分理由になっている。年上の土方に襟首を掴まれ牽制されてしまえば、手も足もだせなくなる。どうしようもない体格差がまた腹が立つ。
あがく沖田に業を煮やした土方が振り返り、声を張り上げた。
「近藤さん!笑ってねぇであんたもなんとかしてくれ」
声の向かう方向に、井戸に水を汲みに来たらしい近藤が立っていた。土方の呼びかけに近藤は大きく手を振る。
「いや、だから、笑ってねぇで」
井戸の脇で手を振る近藤の姿を沖田は前髪の影から見上げた。水桶からこぼれた水が地面を涼しげに濡らしている。沖田たちのいる場所まではそれなりに距離があるため、近藤が口元に両手を添えた。
「トシー。総悟ー。す・い・かー!」
おいでおいでと手招きしている。
「今行く」
「二人で食ってろ」
土方にも聞こえないほどの小声で言い捨てた。
草履を脱いで袴の裾をたくし上げ、沖田は川の流れへ足を浸した。ひんやりと痛いくらいの冷たさが心地よい。ふくらはぎを洗う水は下流よりもずっと透明で、水面を反射する光がキラキラ輝いている。
上流に近い川の中腹は流れも速く、急に深くなるから絶対にひとりで行ってはいけないと、姉のミツバにも近藤にもきつく言い含められていたが、そんなことどうだってよかった。流されるヘマなんてしないし、泳ぎだって得意だ。流されるはずがない。付き添いが必要な子供じゃないのだ。近藤が土方といるほうが楽しいなら、二人でスイカでもなんでも食ってりゃいい。ひとりだって十分楽しい。いや、今までだって近藤がかまってくるから相手してやってただけで、遊んでもらってたわけではない。