ザブザブと川を歩いていると足元を魚が泳いでいるのが見えた。川底に留まる二匹の背びれをじっと見下ろす。反射する太陽光の下で魚は尾びれを振り胸びれをひるがえす。胸の辺りがムカムカしてきて、水中を蹴り上げた。
 しまったと思った。ずるりとした嫌な感触。足の裏が苔むした石の表面を滑った。視界がぐるりと空へと反転する。
水が塊となって沖田の体にぶつかってくる。轟音が耳を塞ぐ。身体が流れに放り出されるより一瞬早く、何者かの手が沖田の襟を捕まえた。
「──っとに危ねぇな」
 青い顔をした土方がほっと息をついた。
「あんま近藤さんに心配かけんな」
「うるさい離せっ!」
 がっちり掴んでいる土方の手を強引に振りほどき、その顔を睨み付けた。
「余計なことすんじゃねェ!」
 ずぶ濡れの土方が、仕様がないとでも言うように沖田を見る。
「近藤さんがスイカ食おうってよ」
「二人で食ってりゃいいじゃねェか」
 睨む沖田を土方はじっと見返す。
「近藤さんは総悟と食べたいんだよ」
 伸ばされた手を払いのけた。
「知ってらァそんなこと!」
 土方の着物を力いっぱい引き寄せる。腰近くまで浸かり、川は轟々と音を立てて流れる。水を吸った袖が重く腕に絡みつく。
「近藤さんは俺のことが好きで好きで仕方ねェんでィ!てめェの百倍も一万倍も俺のが大好きなんでィ!」
 右手を固く握り締める。土方は胸倉を掴まれたままじっと沖田を見下ろし何も言わない。唇をかみ締めた。
「ここは、てめェの居場所じゃねぇんでィ!」
 水しぶきが飛び散り、光の粒となってきらきら輝く。沖田の固めた拳を土方は手のひらで受け止めた。土方の手は大きく、沖田の手は小さかった。
「ここは殴られてもいいだろ」
「悪い……」
「なぁ土方、一人でいるのなんか慣れっこだろ?別にここにいる必要もねぇんだろ?だっ たらよぉ、どっか行ってくれよ……」
 段々と目の前がにじんでくる。鼻の奥がツンと痛くなり、締め付けられたみたいに喉が苦しい。
「悪い……」
 川上に立ち土方はかすれた声で呟いた。
「悪いな……総悟……」
 いまさら愁傷なふりなんかしやがって。口を開くと涙が止まらなくなりそうで、沖田は目を見開いて睨み続けた。青々とした木々が高い空に映る。遠くから沖田の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。微かな声でも近藤だとわかった。土方の名前も聞こえてくる。
「大丈夫だつったのに」
 土方が聞こえてきたほうに目を向け独り言のように呟いた。いてもたってもいられず結局捜しにきたのだろうと、沖田に目配せする。濡れた目元を急いで拭った。
「さっきのこと言うなよ!」
「泣いたことか?」
「全部でィ!」
「言わねェよ」
 ぽんぽんと叩く土方の手が沖田の頭を包む。
「自分で言え」
 木の陰から近藤の姿が見えた。