軽快な音を立てて障子戸が開け放たれた。月明かりの射し込んだ局長室を沖田は見下ろした。
「なにやってるんですかィ、お二人さん」
 近藤と土方の二人がどことなく気まずそうに居住まいを正す。
「なにってなんだよ。なんもしてねェよ」
「そうそう。世間話してただけだぞ。なートシ?」
「電気もつけねェでですかい」
 土方が厳しい視線を近藤に向ける。
「……さてと、風呂にでも入ってくるかな」
「二人がなにしてようがどうでもいいんですがね」
「いや本当に別に大してなにもだな──」
「近藤さん、今頃風呂ですかィ」
「総悟も入るか?」
「いいですねぇ。丁度ひとっ風呂浴びたいと思ってやした」
「おい待て」
 土方が隊服の襟を思い切り引っ張ってきた。
「てめぇ夜勤だろうが」
「そうなの?」
「残念ですが一人で入ってきてくだせぇ」
 そうかぁ、と近藤が残念そうに肩を落とす。
「でもそれなら仕様がないな。お仕事頑張ってください」
 冗談めかした敬礼に、沖田も右手をかざす。
「頑張りやす」
 近藤がいなくなり、沖田はため息混じりに伸びをした。
「俺も仕事行くとするかぁ」
「さぼんなよ」
「ちったぁ仲間を信用しねェと器のちいせぇのがばれちまいますぜ」
 開け放ったままの障子の桟に手をかけると、土方が沖田を呼び止めた。
「……近藤さんに用があったんじゃねぇのか」
「別に。あんたが入ってくのが見えただけでさ」
 沖田の口調とは対照的に、土方は眉根を寄せると口をつぐんだ。かける言葉がみつからない、というように押し黙る土方に腹立たしさを覚える。こうやって土方は言葉以上の意味に考えを巡らせ、まるでこっちの心情を察したような顔をする。気に食わない。含みのある言い方をして「察してほしい」なんて独りよがりな真似をすると思われるのは不愉快だし、勝手に同情されるのはもっと面白くない。
 苛立ちと共に拳を振り上げる。軽い音を立てて沖田の拳は土方に止められた。
「てめぇのことは嫌いだが、てめぇにすまなさそうにされるのが一番癇に障らァ」
 何度土方のこの表情を見てきただろうか。これからも何度となく見ることになるのだろう。沖田や他の誰かが何か言ったところで変わりはしまい。いまさら変わるような付き合いではない。近藤とも、土方とも。
「そりゃ悪かったな」
 にやりと土方が不敵に笑う。憎たらしい土方の面に沖田もにやりと口角を上げた。

─終─



   あとがき

 この時代というか子供沖田が妙に書きたくなります。小生意気だったり多少は素直だったり独り占めしてた姉ちゃんや近藤さんが土方に取られたり大変な子供総悟。なんて可愛らしい。この三人は親友っていうより家族ですよね。