眼に痛いほどの鮮やかなオレンジ色が空一面に広がり、街並みを染めている。その上を赤や黄色が線を引き、点在する雲の影が良いアクセントになっている。
「何やってんのかなぁ、近藤ぅ」
はっとして振り返ると、教室の開け放したドアに白衣姿の男が立っていた。顔に張り付いた笑顔とは対照的に不機嫌さを露にした声で、近藤は自分の置かれた立場を思い出した。指示されていた補習用のプリント三枚は最初の一枚が何とか終わっただけで、あとの二枚は見事に白い。黒板の上の時計に目をやると、優に六時を回っていた。
「余裕なその様子を見ると当然終わっているんだろうなァ」
にこにこと威圧的に笑いながら銀八が近付いてくる。その笑みを返しながら「終わってません」と正直に答えた。窓際から離れる気もしないし、今更プリントを終わらせる気も起きない。
ほほぉ、と銀八が眉を上げる。
「随分と良い心構えじゃねェか。もう六時を過ぎてるってのにまだ終わっていないとは見上げた精神だなあ」
そして下りてきた眉の代わりに口の端を上げた。
「俺、いい加減帰りたいんだけど。ね、近藤くん」
補習で残されていた数名の生徒は皆帰っており、教室にいるのは既に近藤だけになっている。そのため帰るも帰らないも近藤の出来次第、と言うことらしい。
「俺だって先生がちゃんと教えてくれてたら真面目にやってたって」
「人の所為にすんじゃねェよ。窓の外にはそんなに面白いもんがあったのか?」
「いや、夕日が綺麗だったんで……」
言いながら、銀八の横顔に近藤は目を細めた。窓ガラスに額を押し付けながら外を覗き見る銀八の髪が、夕方の強い日差しでオレンジ色に変わっていた。色素のない元々の髪質の所為か、オレンジの光を通してキラキラと輝いている。
それが凄く綺麗だった。
「何」
外を見ていた横顔が少しだけこちらを向く。オレンジ色の前髪の下で怪訝そうに両の眉が寄った。
「髪、凄ぇ綺麗ですね」
「は、あ?」
「夕日で綺麗なオレンジになってますよ。凄ぇ綺麗」
笑顔の近藤に銀八の表情が渋くなる。
「俺なんか真っ黒だから先生みたいな銀髪って良いよなァ。羨ましい」
「気持ち悪いよ」
「ひでェ」
「そんなことどうでも良いからプリントやってくんない?いくら生徒想いの俺でも嫌いになるよ」
それは困る。
おとなしく机に戻ると終わっていないプリントをやるべく、転がっていたシャーペンを手に取った。心新たに取り掛かろうとするのだが解らないのは変わらない。早くも挫折の気配を感じる。内心溜め息が止まらない近藤に、銀八は意外そうに顎を擦った。
「言えばちゃんとやるんだな」
「嫌われたくないから」
「……だったら、最初からやれよ」
近藤の席からだと銀八の姿を照らしているのは教室の電灯で、窓を背にした銀八の髪の輪郭だけがオレンジ色になっている。眼鏡が蛍光灯の光を反射して表情が分かりにくい。感じなとき銀八の反応が見えない。
「先生ェこれ解んねェえ」
「えーっ、面倒くさいよ。頑張ってやってくれ」
「おいィィ終わらないって。教えてよ!」
ほらほら、と机に身を乗り出して前の席の椅子を引き寄せる。渋々といった重い足取りで近藤の向かいの席に座った。
「どーれぇー?」
横柄な態度で一度仰け反ったあと、銀八は近藤の机の端に片肘をついた。頬杖をついてプリントを覗き込む顔に眼鏡が影を作っている。そのメタルフレームに近藤は手を伸ばした。